日々の入浴には、体を洗い綺麗にする効果の他に、体を温めたり、リラックスできる効果を実感している人も多いことと思います。また、温泉には古くから湯治という言葉があるように、温泉宿に長期滞在して温泉に入浴することにより、体調を整え、療養することも行われています。しかし、温泉や入浴の効果は、なんとなく感じるだけなのか、科学的に認められているのか分かりづらいと思っている人も多いことと思います。
そこで、ここでは入浴や温泉の効果をまとめたいと思います。
1.物理的効果
(1)温熱効果
お湯により体が温まるのが「温熱効果」です。体が温まることにより血管が広がり血流が良くなることで新陳代謝が高まり、体内の老廃物の排泄を促します。
また、体温が1℃下がると免疫力は30%落ちるとも言われており、体を温めることで免疫力を上げる効果も見込まれます。
ぬるめのお湯(37~40℃)は、体の外側からじっくりと温めつ「血管拡張効果」で体の内側からも温めることができます。これは、「副交感神経」を刺激し気持ちを鎮め「リラックス効果」を得られます。
熱めのお湯(42℃以上)は、体の外側から肉を温め、緊張、興奮の自律神経である「交感神経」を刺激し、しっかりと目が覚めた状態になり、いわゆる「目覚め効果」を得られます。入浴中の死亡事故は42℃以上の熱いお湯で発生することが多いため、注意が必要です。
適温は42℃で、気持ちの良く感じる温度といわれています。
(2)水圧効果
入浴することで体表面には静水圧がかかり、内臓が刺激されることで内臓運動となります。また、脚には全血液量の三分の一が集まっていますが、入浴によりこの血液が心臓に送り返される(ポンプアップ効果)ことで下の静脈の流れが良くなり、血液やリンパ液の循環が活発になります。これはデトックス効果があるとも言えます。
全身浴では体の体表面積全体で500kg以上の水圧がかかり心臓への負担が大きいのですが、半身浴や足浴では静水圧が減少し、心臓への負担も少なくなるため、長時間のデトックス効果を得られます。
こういったデトックス効果は、シャワーやサウナでは得られず、入浴することで得られる効果と言えるでしょう。
(3)浮力効果と粘性抵抗
水中では、水深により水圧が変わるため浮力も変わりますが、胸までお湯に浸かると体重の約3分の1、肩まで浸かると約10分の1の重さに感じられるようになると言われています。入浴により体が軽くなるったことで筋肉が緩み、脳波がα波になりリラックス効果を得ることができます。
また、お湯の中で体を動かそうとすると水の抵抗が増し運動効果が働くため、運動機能が低下した人のリハビリテーションにも活用することができます。
2.転地効果(心理効果)
都会の喧騒から離れ、温泉地などに行くことで豊かな自然や普段触れることのない環境で五感に刺激を与えると、脳内ホルモンを調整する内分泌系や呼吸、消化といった自律神経を刺激します。そして、知らずに知らずのうちに溜めていた精神疲労や体調不良からくるストレスを解消し、リフレッシュする効果が得られるのです。
また、山の温泉地では、森の緑により疲れた目を休ませたり、川のせせらぎ、鳥の声など自然の音による癒しや、木々や土の香りによるリラックス効果も期待できます。
海の温泉地では、降り注ぐ日差しや波の音による癒しや、潮風による海塩粒子による体の活性化なども期待できるでしょう。
これらは自宅のお風呂ではなかなか得られない効果ではないでしょうか。
3.薬理効果
温泉の成分を皮膚から吸収することで得られる効果で、これこそが温泉の効果の醍醐味とも言えるでしょう。効果は温泉成分(泉質)により異なります。
(1)浴用の一般的適応症(浴用の適応症)
一般適応症はすべての泉質に共通する適応症で、「療養泉」と認定されていない単純泉についても、一般適応症の効能が認められます。
筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、
運動麻痺における筋肉のこわばり、
冷え性、
末梢循環障害、
胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)、
軽症高血圧、
耐糖能異常(糖尿病)、
軽い高コレステロール血症、
軽い喘息又は肺気腫、
痔の痛み、
自律神経不安定症、
ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、
病後回復期、
疲労回復、
健康増進(平成26年7月1日改正による適応症)
(2)泉質別適応症
掲示用泉質 | 浴用 | 飲用 |
---|---|---|
単純温泉 | 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態 | ー |
塩化物泉 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 | 萎縮性胃炎、便秘 |
炭酸水素塩泉 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症 | 胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常(糖尿病)、高尿酸血症(痛風) |
硫酸塩泉 | (塩化物泉に同じ) きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 | 胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘 |
二酸化炭素泉 | きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症 | 胃腸機能低下 |
含鉄泉 | ー | 鉄欠乏性貧血 |
硫黄泉 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症(硫化水素型については、末梢循環障害を加える) | 耐糖能異常(糖尿病)、高コレステロール血症 |
酸性泉 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症 | ー |
放射能泉 | 高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎など | ー |
含よう素泉 | ー | 高コレステロール血症 |
※泉質により上記のような「飲用」による適応症が認められているが、保健所による「飲用」の許可がされていかいことが多いため注意が必要です。細菌などの衛生面や重金属など成分により、体に害を及ぼす場合があることも知っておく必要があります。
4.カロリー消費
諸説ありますが、40℃のお湯で10分間全身浴すると、40キロカロリー消費すると言われています。これは、やや早歩きのウォーキング10分間と同じカロリー消費となります。
入浴によりリラックス効果が得られると話しましたが、カロリー消費されることから分かるように、体への負担もあるのです。42℃の適温で10分間の連続全身浴は体に負担をかけてしまうため、「分割浴」がすすめられています。3分間強の入浴、浴槽から出て5分間程度の休憩を3回繰り返し、合計10分間の入浴をすることで、体の負担を減らしながらカロリー消費することができます。
5.発汗効果
体内には、水銀など汗でなければ排出できない金属系の物質があるという説があります。発汗によるデトックス効果で、これらの老廃物を排泄する効果があるというものです。
一方で、汗と一緒に毒素も排出されるというのは、都市伝説という研究結果もあるようです。
「汗をかいてデトックス」はウソだった、研究報告 NATIONAL GEOGRAPHIC
発汗自体の効果の有無は諸説あるようなので、今後の様々な研究結果により情報をアップデートする必要がありそうです。
(参考文献:温泉ソムリエテキスト)